
The Medium
開発: Bloober Team発売: Bloober Team SA¥1,914
アドベンチャー
PlayNext レビュー
二つの世界が同時に存在している。画面の左半分には廃れたリゾートホテルの薄暗い廊下、右半分には腐敗と死が支配する霊界。主人公マリアンヌが一歩踏み出すたびに、両方の世界が同期して動く。このデュアルリアリティというアイデアだけで、『The Medium』は他のホラーゲームとは根本的に異なるゲーム体験を提供している。「二つの世界を同時に生きる霊能者」という体験を、映像・音・操作の全てで体現しようとした野心作だ。
ゲームプレイの中心は探索とパズル解法。戦闘システムは存在せず、プレイヤーは霊的な能力——霊界への投影、エネルギーの充填、過去の残留思念の読み取り——を駆使して謎を解きながら進む。操作感は意図的にゆったりとしており、マリアンヌの歩みは重く、カメラは固定視点から固定視点へと切り替わる。かつてのバイオハザードやサイレントヒルを想起させるクラシックなアドベンチャー感覚だ。ただし現代的な水準でストレスフリーに調整されており、迷子になって詰まるような設計にはなっていない。ボリュームは一周8〜10時間ほど。攻略要素は少なく、ほぼ一本道に近いため、周回プレイやエンドコンテンツを求めるタイプのゲーマーには物足りなさを感じるかもしれない。
このゲームが最も力を入れているのは間違いなくビジュアルと音響だ。デュアルワールド画面はPS5・Xbox Series X世代の性能を前提に設計されており、二つのシーンを同時レンダリングするという技術的な挑戦を正面から引き受けている。霊界のビジュアルは特に印象的で、植物の蔦が石化し、肉質の壁が波打ち、人の感情の残滓が風景として結晶化している。現実世界の廃墟の寂しさと、霊界の有機的な不気味さが対比を成し、独自の視覚的アイデンティティを確立している。
サウンドについては特筆すべき点がある。作曲はゲーム音楽の巨匠アーカディウス・レイコフスキと、映画「IT」「ムーンライト」などで知られるアーカス・サウンドが担当しており、音楽だけでなく環境音の設計が極めて精緻だ。現実世界と霊界では音の質感が異なり、霊界では全ての音が遠くでくぐもって聞こえる。ヘッドフォンでプレイすると、この音響設計の意図が最大限に伝わる。
ストーリーは1990年代のポーランドを舞台に、廃リゾートホテル「ニワ」で起きた忌まわしい出来事の真相を追う。霊能力を持つ主人公が謎の声に誘われ、そこで見つける記憶の断片、残された人々の痕跡、そして彼女自身のアイデンティティにまつわる秘密。物語は重く暗い——子どもへの虐待、トラウマ、喪失といったテーマを正面から扱っており、ホラーの恐怖よりも心理的な重さが際立つ。ネタバレなしに言えるのは、エンディングまで一貫してトーンが重く、ハッピーな結末を期待して臨むゲームではないということだ。
似たゲームと比べると、『コントロール』や『アランウェイク2』のようなAlan WakeユニバースのゲームやBloober Team自身の前作『レイヤーズ・オブ・フィアー』とは明確に異なる方向性を持つ。コントロールが超常現象をアクションで楽しむゲームなら、The Mediumは超常現象を「体験する」ゲームだ。また同じ探索型ホラーである『SOMA』や『Amnesia』シリーズと比べると、純粋な恐怖体験よりも物語と世界観の彫刻に重点が置かれており、怖くて続けられないという事態にはなりにくい。Bloober Teamがこの後に手がけた『サイレントヒル2リメイク』のトーン感を先取りしているという見方もできる。
注意点をいくつか挙げておきたい。まず、前述の通りゲームプレイは非常に受動的だ。探索とパズルで構成されており、アクション要素やホラー的な緊張感を求めるプレイヤーには退屈に感じられる可能性がある。追いかけてくる敵から逃げるシーンも存在するが、それは例外的な演出であり、基本的には静かなゲームだ。また、デュアルワールド演出はグラフィック設定によっては重く、スペックを要求する場面がある。ストーリーのテーマが重いため、精神的に消耗している状態でのプレイは避けたほうがいいかもしれない。日本語字幕対応はあるが、日本語吹き替えはない。
このゲームが刺さるのは、ゲームを「体験」として捉える人だ。美しいビジュアルと音楽に包まれながら、暗い物語を最後まで見届けたい人。サイレントヒルやアローンインザダーク初期作のような固定カメラのアドベンチャーに親しみを感じる人。ホラーは好きだが、理不尽な難しさや過度な恐怖演出は苦手という人にも向いている。¥1,914というセール価格帯なら、映画一本分の投資として非常に満足度が高い。
逆に、アクションや戦闘のカタルシスを求める人、ゲームプレイ的なやり込み要素がないと物足りない人、明るく爽快なゲームを求めている人には合わない。物語の暗さと重さは本物であり、プレイ後に重い後味が残ることを覚悟しておく必要がある。それでもなお、二つの世界を同時に生きるという唯一無二の体験を、これほど美しく作り上げたゲームは他にない。
スクリーンショット











