
Endoparasitic
開発: Miziziziz発売: Deep Root Interactive¥757
インディー
PlayNext レビュー
腕が三本なくなっている。足も動かない。それでもあなたは生き延びなければならない——この一文で、『Endoparasitic』の体験は語り尽くせる。
インディー開発者 Miziziziz が手がけたこの作品は、「無力さ」をゲームプレイそのものに昇華させたサバイバルホラーだ。主人公は研究者。小惑星上に建設された秘密の研究施設で何かが起き、三本の手足を失い、致死性の寄生虫に感染した状態で目覚める。目的はただひとつ——自分の研究を守り、生き残ること。
移動は、文字通り「ずりずりと這い進む」ことになる。マウスを交互にクリックして両腕を床につき、一歩ずつ体を引きずる操作方式は、他のゲームでは絶対に体験できない独自の手触りを生む。走れない、飛べない、身を翻すことすらままならない。通常のFPSやアクションゲームなら一瞬で横断できる廊下が、恐ろしく長い距離に感じる。これは不便さをデメリットとして設計したのではなく、恐怖の密度を高めるための意図的な選択だ。移動するだけで緊張感がある——そんな稀有な設計を持つゲームである。
戦闘は片腕に握った武器で行う。弾薬は少ない。ゾンビのように変異したクリーチャーたちは執拗に追いかけてくるが、こちらはその場から逃げることすら困難だ。「撃って逃げる」というセオリーが通じない状況で、いかにリソースを温存しながら立ち回るか。弾を節約するために接近を許すか、それとも確実に仕留めるために弾を使うか——常にトレードオフの判断を迫られる。さらに時間とともに進行する寄生虫の感染症状を抑えるため、定期的にワクチンを注射しなければならない。インベントリ管理と時間プレッシャーが絡み合い、プレイヤーを絶え間ない緊張状態に置き続ける。
ビジュアルはローポリゴンとレトロなテクスチャを組み合わせた、意図的にチープな質感だ。PSXライクと呼ばれるこのスタイルは、現代のリアルなホラーグラフィックとは真逆のアプローチだが、むしろ見えない部分を想像力で補完させることで、独特の不気味さを演出する。施設内に点在する青白い蛍光灯の光、血に汚れた廊下、暗がりに蠢く何かの影——粗いビジュアルだからこそ際立つ恐怖がある。サウンドデザインも秀逸で、這い進む音、クリーチャーの息遣い、金属製の床に響く自分の移動音がホラーの雰囲気を丁寧に積み上げていく。
世界観は断片的に語られる。研究施設に何が起き、どんな実験が行われていたのか。ログや環境ストーリーテリングを通じて少しずつ明かされる真実は、プレイヤーの好奇心を絶えず刺激する。SF的な設定とボディホラーの要素を組み合わせた世界観は、映画『ザ・フライ』や『遊星からの物体X』を彷彿とさせるが、そこに「感染しながらもあがき続ける研究者」という主体性が加わることで、単純な恐怖体験以上の物語的厚みが生まれている。
比較するなら、移動の不自由さとリソース管理という点ではResidentEvilシリーズ初期作品に通じるものがあるが、あそこまで複雑なパズルや謎解きはない。より直接的な比較対象として挙げるなら、同じくローポリホラーの系譜に連なる『Dread Templar』や『Lunacid』などが近いかもしれないが、Endoparasitic はより極端な制約に特化している。「動けないことの恐怖」という単一のコンセプトをここまで突き詰めたゲームは、ほかにほとんど存在しない。
プレイ時間は1〜2時間程度とコンパクトだ。ただし、複数のエンディングが用意されており、周回要素もある。短い時間で高密度な恐怖体験が得られるため、長時間ゲームに割く時間がない人にも向いている。エンドコンテンツとしては全実績解除や異なるルート探索が楽しめる。
注意点として、這い移動の操作に慣れるまで若干のストレスを感じる可能性がある。また、ボディホラー的な描写(切断、寄生虫、変異した生物など)が含まれるため、そういったグロテスクな表現が苦手な人には向かない。ゲーム自体は難しすぎず、サバイバルホラー初心者でも挑戦できる難易度に収まっている。
「いつもとは違うホラー体験をしたい」「コンセプトの尖ったインディーゲームが好き」「短時間で濃密な体験を求めている」という人には強くおすすめできる。反対に、爽快なアクションや自由な移動を求める人、または血や寄生虫の描写が苦手な人には合わないだろう。¥757という価格帯を考えれば、そのコンセプトの独自性と完成度は十分すぎるほどのコストパフォーマンスだ。
スクリーンショット










