
Little Nightmares
開発: Tarsier Studios発売: BANDAI NAMCO Entertainment¥605
アドベンチャー
Steam レビュー
非常に好評
PlayNext レビュー
子供のころ、暗い廊下の奥に何かいるような気がして、足音を立てないように急いで部屋に戻った経験はないだろうか。あの感覚——説明できないのに確かに存在する恐怖、見てはいけないものへの好奇心、自分の身体が周囲に対してひどく小さいという無力感——を、ゲームという形でこれほど正確に再現した作品はほとんど存在しない。*Little Nightmares*はホラーゲームでありながら、プレイヤーが感じるのは「怖い」というより「懐かしい」だ。子供のころの夢の中に迷い込んだような、あの奇妙な感覚がずっとついて回る。
プレイヤーが操作するのは、黄色いレインコートを着た小さな少女「シックス」。彼女が囚われているのは「ザ・モウ」と呼ばれる巨大な船舶だ。脱出を目指してその内部を進んでいくというのが大まかな流れだが、このゲームにチュートリアルはなく、説明もほとんどない。ゲームパッドのスティックを動かしながら自分で「ここは這えるのか」「あの箱は押せるのか」と確かめていく必要がある。操作は非常にシンプルで、移動・ジャンプ・掴む/引くの三つが基本だ。それゆえにゲームプレイの手触りはなめらかで、慣れるのに数分もかからない。
ただし、シックスの動きには独特の「重さ」がある。軽快に飛び回るアクションゲームではなく、小さな身体で重い物を引きずり、高い棚によじ登り、暗闇の中で音に耳をすませながら進む——その一つひとつに緊張感が伴う。ステージは3Dで構成されているが、基本的には横スクロールに近い視点で展開する。この「奥行きがある横スクロール」という設計が絶妙で、背景に潜む脅威が少しずつ視界に入ってきたり、遠くで何かが動く気配を感じたりと、画面の隅々まで目が離せない構造になっている。
ビジュアルの完成度は圧倒的だ。ザ・モウの内部は、厨房・倉庫・宴会場・機械室といったゾーンに分かれており、それぞれが独自の不気味さを持っている。全体的にくすんだ茶色と黄色のパレットで統一されていて、豪華だったはずの船が腐敗していく様子が随所に刻まれている。大量の食材が乱雑に積まれた厨房、壁じゅうに詰め込まれた荷物の山——そのスケールの巨大さと、シックスの身体の小ささのコントラストが、プレイヤーに常に「圧」を与え続ける。サウンドデザインも秀逸で、BGMは最小限に抑えられており、代わりに船のきしむ音、遠くから聞こえる足音、水の滴る音が空間を満たしている。音が突然止まる瞬間の緊張感は格別だ。
ストーリーについては、ほとんど言葉による説明がない。誰がなぜシックスを閉じ込めたのか、ザ・モウとは何のための船なのか、その答えはセリフではなく、環境そのものが語る。壁に描かれた絵、積み上げられた物体の意味、登場する「住人」たちの行動から、プレイヤーが自分で物語を読み取っていく仕組みだ。これは好みが分かれる部分でもあるが、解釈の余地が大きいぶん、クリア後もしばらく頭の中に残り続けるような余韻がある。特に終盤の展開は、それまでの雰囲気を一変させるものがあり、「このゲームは何を描いていたのか」と考え直したくなるはずだ。
同ジャンルとして比較されやすいのは*INSIDE*(Playdead)や*Limbo*だろう。どれも横スクロール型の雰囲気重視アドベンチャーという括りでは共通しているが、*Little Nightmares*は「恐怖の源泉が具体的なキャラクター」であるという点で一線を画している。*INSIDE*が不条理な世界の構造そのものへの恐怖を描くのに対して、*Little Nightmares*には明確な「敵」がいる。その敵が異様に巨大で、かつ異様に人間的な姿をしているからこそ、子供が大人の世界に放り込まれたような生理的な怖さが生まれる。*Limbo*のモノクロの無機質さとも異なり、色彩と質感の豊かさが逆に不快感を強調する独自のスタイルを持っている。
プレイ時間は初回クリアまで3〜4時間が目安だ。短いと感じるかもしれないが、この長さは意図的な設計だと思う。余計な引き伸ばしがなく、緊張感が途切れないまま最後まで走り抜けられる。コレクタブル要素として各ステージに小さな人形が隠されており、全回収を目指すと5〜6時間程度になる。周回要素はほぼなく、エンドコンテンツも存在しないが、DLCが3本リリースされており(別売り)、本編とは異なる視点から物語を補完する内容になっている。¥605という価格を考えれば、コストパフォーマンスは非常に高い。
注意点として挙げておきたいのは、ステルスと逃走が中心のゲームプレイであるため、アクション面での爽快感はほとんどないということだ。敵に見つかれば即死・即やり直しの場面が多く、パターンを覚えながら慎重に進む必要がある。チェックポイントは細かく配置されているので理不尽ではないが、同じシーンを何度もやり直すのが苦手な人にはストレスになりうる。また、3Dの奥行きがある操作で足場を踏み外すことがあり、ジャンプの精度に若干慣れが必要な場面もある。
こういう人には強くおすすめしたい——雰囲気やアート重視のゲームが好きな人、*INSIDE*や*Limbo*が好きだった人、短時間で完結するが印象に残る体験を求めている人、ホラーは苦手だが「怖い雰囲気」は楽しめる人。逆に、アクションやバトルにやりごたえを求める人、明確な説明とストーリーが欲しい人、長時間遊べるボリュームを重視する人には物足りないかもしれない。
¥605で、子供のころの悪夢を美しく再構成した体験が手に入る。それだけで十分な理由になる。
スクリーンショット











