
Undertale
開発: tobyfox発売: tobyfox¥245
インディーRPG
Steam レビュー
圧倒的に好評
PlayNext レビュー
「敵を倒さなくていい」というたった一行のキャッチコピーを読んだとき、多くの人は首を傾けるはずだ。RPGとは敵を倒して強くなるゲームではないのか、と。しかし『Undertale』をプレイし終えた後、そのキャッチコピーが単なる売り文句ではなく、このゲームの根幹に流れる哲学そのものだったと気づく。画面の前に座ったプレイヤーが「どう遊ぶか」を選ぶことで、ゲームが全く異なる顔を見せてくる——それがUndertaleという体験の本質だ。
戦闘システムから説明しよう。敵と遭遇すると、画面下部に小さなハートが現れる。これがプレイヤー自身の心臓であり、敵の攻撃をシューティングゲームのように避けながら、「たたかう」か「こうどう」(会話や行動)を選ぶ。モンスターに話しかけ、冗談を言い、なだめ、からかうことで戦わずに切り抜けることができる。一方で剣を振るって倒すことも可能だ。この選択がゲーム全体の結末を静かに、しかし確実に変えていく。操作は非常にシンプルで、古典的なドット絵RPGの形式をベースに、弾幕を避けるパートが組み込まれたイメージに近い。難易度は総じて低めで、アクションが苦手な人でも十分クリア可能なレベルに調整されている。
ビジュアルは16ビット時代を意識した粗いドット絵で、現代の基準では地味に見えるかもしれない。しかしこの「古さ」は制作者tobyfox氏の意図的な選択であり、懐かしさと手作り感が同居した独特の温かみを生み出している。特に印象的なのはサウンドトラックだ。200曲以上にのぼる楽曲を tobyfox 氏が単独で作曲しており、ピコピコ音とオーケストラ的な厚みが混在する音楽は、場面の感情を驚くほど正確に増幅させる。ボスとの対峙シーンで流れる曲は今も多くのファンに語り継がれており、ゲーム音楽の歴史に残る名曲として広く認知されている。
舞台は地下世界に封印されたモンスターたちの王国。人間の子どもが迷い込み、地上への帰り道を探す旅が物語の骨格だが、Undertaleが描くのはその先にある「出会いと別れ」の積み重ねだ。登場キャラクターはどれも個性的で、会話の一言一言に書き手の愛情が滲む。コミカルなシーンとシリアスなシーンの落差が鋭く、プレイヤーは笑いと感動を短いスパンで繰り返し味わうことになる。ネタバレを避けながら言うと、このゲームにはプレイヤーの「選択の歴史」を記憶する仕掛けがあり、それがある瞬間に全く予期せぬ形で牙を剥く。その体験は、ゲームというメディアにしか成立しない問いかけを孕んでいる。
同じインディーRPGとして『MOTHER2』と比較されることが多い。MOTHER2と同様にユーモアとペーソスが共存した世界観を持つが、Undertaleはさらに一歩踏み込んで「プレイヤー自身の行動への問い」を物語に組み込んでいる。また弾幕系の戦闘を持つ点では『東方Project』との類似を指摘する声もあるが、Undertaleの弾幕はあくまで感情表現の手段であり、反射神経を鍛えるゲームとは根本的に異なる。近年の作品では精神的続編にあたる『Deltarune』も存在し、Undertaleを気に入ったなら間違いなく次の選択肢になるだろう。
プレイ時間は一周あたり5〜8時間程度。ただしこのゲームには複数のルートが存在し、選んだ道によってエンディングが大きく変わる。特定のルートは他のルートをクリアしてから挑むことで真の意味が明らかになる構造になっており、2周目以降は「知っている」ことが新たな発見につながる。とはいえ、周回プレイを強制するような作りではなく、1周でも十分に完結した体験が得られる。
注意点を挙げるとすれば、グラフィックの「粗さ」に対する許容度だ。現代のAAAタイトルの映像美に慣れたプレイヤーには、最初の数分間で画面を閉じたくなる衝動が生まれるかもしれない。また戦闘回避を主体にしたプレイスタイルは、爽快感よりも静かな達成感に近い。ゴリゴリと敵を倒して強くなる感覚を求めているなら、それはこのゲームでは得られない。
こういう人に強くおすすめしたい——ゲームというメディアに「物語以上の何か」を求めている人、かつて『MOTHER2』や初期ファイナルファンタジーに心を動かされた人、そして¥245という価格に対してとんでもないコストパフォーマンスを体験してみたい人。逆に、華やかなビジュアルやハードなアクションに価値を置くプレイヤーには素直に向かないかもしれない。しかし一度でも「ゲームで泣いた」経験があるなら、Undertaleはほぼ確実にその記憶の棚に並ぶ一本になるはずだ。
スクリーンショット











