
Shadowrun Returns
開発: Harebrained Schemes発売: Paradox Interactive¥497
アドベンチャーインディーRPGストラテジー
Steam レビュー
好評
PlayNext レビュー
サイバーパンクと魔法が同居する世界——これほど矛盾を体感できるゲームは少ない。ネオンに照らされた雨のシアトルで、スーツ姿のエルフがシャーマンの呪文を唱えながら企業の傭兵をかわす。その光景が当たり前のように画面に映し出されたとき、「ああ、これはShadowrunだ」という確信が湧く。Shadowrun Returnsは、1989年に誕生したテーブルトップRPGの世界をデジタルで再現した作品だ。25年以上ファンを惹きつけてきたその世界観を、Harebrained Schemesが現代のゲーマーへ向けて丁寧に翻訳してみせた。
ゲームプレイの核はターン制タクティカルRPGだが、その手触りはXCOMのような緊張感重視のシステムとは異なる。アクションポイントを使って移動・射撃・スキル使用を組み合わせるが、難易度設計は「詰め将棋」というよりも「物語を体験するための戦術的な障害」に近い。遮蔽物を活用し、ストリートサムライが前衛で弾を吸いつつ、後方のデッカーがジャックインしてサイバースペースの敵AIを無力化する——この役割分担が噛み合ったときの気持ちよさは格別だ。戦闘のテンポは比較的ゆったりしており、熟考する時間が十分に与えられている。ミスしてもリロードで取り返せる設計のため、戦略的な失敗から学ぶ楽しさがある。
キャラクター作成の幅も見どころの一つだ。人間・エルフ・ドワーフ・オーク・トロルの5種族から選び、ストリートサムライ(近接/銃器戦闘特化)・デッカー(ハッキング)・シャーマン(精霊召喚)・マジシャン(魔法攻撃)・リガー(ドローン操作)など多彩なアーキタイプを組み合わせられる。スキルポイントの振り方次第でまったく異なる攻略ルートが開け、デッカーキャラでプレイすると戦闘中のサイバースペース侵入という独自の「もう一つの戦場」が生まれる。この二層構造は他のタクティカルRPGにはなかなかない体験で、Shadowrunならではの醍醐味だ。
ビジュアルは2013年リリースという時代を考えれば水準以上だが、2Dのアイソメトリックビューを採用したことで、逆に独特の雰囲気を持つ。キャラクターや背景のアートワークはグラフィックノベル的な質感があり、雨に濡れたシアトルの路地裏から巨大企業の超高層ビルまで、世界観の視覚的な一貫性が保たれている。サウンドトラックはサイバーパンクらしいシンセ系の音楽が中心で、陰鬱で緊張感のある雰囲気作りに貢献している。特別派手ではないが、没入を妨げない誠実な仕事ぶりだ。
ストーリーは「屍体から届いた旧友の遺言」という古典的なノワールの導入から始まる。主人公のシャドウランナー(非合法の特殊工作員)として、友人の死の真相を追ううちに、シアトルを揺るがす陰謀の渦中へ引きずり込まれていく。全体のボリュームはメインキャンペーンで12〜15時間程度とコンパクトだが、テキストの密度が非常に高く、NPCとの会話を通じて世界の深みを感じ取れる。SFと魔法の融合という設定を説明臭くなく自然に語る手腕はさすがで、「なぜこの世界にドラゴンが企業を経営しているのか」といった背景をプレイしながら有機的に理解していける。ネタバレ抜きで言えば、エンディングは賛否両論あるが、続編への橋渡しとして機能している。
似た作品と比べると、Baldur's Gate 3のような大規模オープンワールドとは対極に位置する。本作はリニアな構成を持ち、探索よりもナラティブと戦術に集中している。同じターン制タクティカルRPGであるXCOMシリーズと比べると、永続死亡やリソース管理のシビアさはなく、よりストーリー重視のプレイが楽しめる。Disco Elysiumのようなテキスト重視RPGに近い読後感があるが、あちらほどゲームプレイを排したナラティブ特化ではなく、戦闘の駆け引きと物語体験のバランスが取れている。同シリーズの続編であるShadowrun: Dragonfall(Director's Cut)やShadowrun: Hong Kongはさらに評価が高く、本作はシリーズ入門として最適な位置づけだ。
プレイ時間はメインキャンペーンで12〜15時間、やり込みでもその1.5倍程度が上限だろう。ルートの分岐は存在するが、大きく展開が変わるほどではないため、二周目は「別ビルドで戦術を変える楽しみ」に限定される。一方、Steamワークショップ対応のおかげでユーザー制作のキャンペーンが多数公開されており、本編クリア後も長く遊べる環境が整っている。コミュニティ製の中には公式作品と遜色ないボリュームのものもあり、実質的なエンドコンテンツとして機能している。
注意点を正直に述べておく。システムへの解説が薄く、テーブルトップRPGのShadowrun知識を前提とした部分がある。用語の説明が省かれがちで、「デッカー」や「マトリックス」がわからないまま進むと没入感が下がる可能性がある。また、メインキャンペーンの終盤は中だるみを感じるという意見もあり、ペース配分の粗さが気になることもある。日本語ローカライズは非公式のため、英語テキストが多く読解力が必要な点も覚えておきたい。
こういう人には強くおすすめしたい——サイバーパンクと魔法が同居する異質な世界観に惹かれる人、ターン制RPGは好きだが複雑すぎるシステムに疲れている人、コンパクトに完結するストーリー重視のRPGを求めている人、そして手頃な価格でコストパフォーマンスを重視する人。価格帯を考えると、このクオリティとボリュームは破格だ。逆に、広大なオープンワールドや自由度の高い探索を期待する人、最新の高品質グラフィックが必須条件の人、アクションゲームのようなリアルタイムの爽快感を求める人には向かないかもしれない。しかし、物語と戦術が絶妙に絡み合う体験を求めているなら、Shadowrun Returnsはその入り口として申し分ない一作だ。
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