
サブノーティカ:ビロウゼロ
Subnautica: Below Zero
開発: Unknown Worlds Entertainment発売: Unknown Worlds Entertainment¥1,419
アドベンチャーインディー
PlayNext レビュー
宇宙の孤独と、深海の静寂と、零下の孤島——その三重の閉塞感の中で、プレイヤーはひとりの研究者として惑星4546Bに降り立つ。『サブノーティカ:ビロウゼロ』が与えてくれる体験の核心は、「恐怖と美しさが紙一重で共存する水中世界での生存」だ。空気は足りない。食料も水も自分で確保しなければならない。だが顔を上げれば、発光するクラゲが群れをなして泳ぎ、深海の岩棚には見たこともない生態系が広がっている。危険と絶景が同じ座標に存在するこの世界に、一度潜れば何時間でも戻ってきてしまう。
前作『Subnautica』から2年後を舞台にした本作は、新たな主人公ロビン・エアを操作する。彼女は謎の死を遂げた姉の足跡を追い、極寒の水域と凍てついた陸地が混在するバイオームへと足を踏み入れる。ストーリーは前作に比べてより直線的で、会話のある登場人物(異星人の意識も含む)とのやりとりを通じて展開する。前作の「何も分からないままひとりで世界の謎を解く」という孤独な探索体験とは少し毛色が違うが、物語の密度は増している。謎が謎を呼ぶ構成で、「次のログを見つけたい」という欲求がプレイヤーを深みへと引き込んでいく。
ゲームプレイの根幹は、資源の採取、クラフト、拠点建設、そして探索の繰り返しだ。序盤は簡素な呼吸タンクと小型ナイフを手に、沿岸の浅瀬で素材を集めるところから始まる。チタンを集め、ガラスを作り、少しずつ装備を整えていく。このサバイバルの歯車が噛み合い始めると、行動範囲が指数関数的に広がっていく感覚が快感だ。潜水艇「シーモス」を手に入れた瞬間の解放感は格別で、「ここまで来れた」という達成感と同時に、「この先に何があるのか」という期待感がない交ぜになる。
本作の特徴的な要素として、陸上バイオームの存在がある。前作は基本的に水中世界が舞台だったが、ビロウゼロでは雪原や洞窟といった地上エリアも探索の場になる。水中から氷の張った地表に這い上がり、猛吹雪の中を防寒スーツで歩き回るシーンは、前作にはなかった緊張感をもたらす。ただし、この陸上パートを「水中ほど洗練されていない」と感じるプレイヤーも少なくない。移動速度が遅く、地形の読みにくさもあって、水中の滑らかな三次元移動に慣れた後では少し窮屈に映る場面もある。
ビジュアルは圧倒的だ。発光する海藻が水流に揺れるケルプフォレスト、深い紫色に染まったクリスタルケイブ、白くかすんだ氷柱の林——各バイオームは独自のカラーパレットと生態系を持ち、単なる背景ではなく「世界の一部」として機能している。生物の造形も独特で、地球の生き物に似た既視感と、まったく見たことのない異質さが絶妙なバランスで混在している。海中を漂うだけで美術館を歩いているような感覚になることがある。
サウンドデザインも特筆に値する。水の中では音が遠くまで伝わる——どこかで巨大生物が動く低音、クリックノイズを出す小型生物、そして何もいない深海での静寂。この「聞こえるが姿が見えない」という状況が、本作最大の恐怖を生み出している。大型の捕食者に近づくほど水中の音が変化し、BGMが不穏なトーンに移り変わる演出は、単純だが効果は絶大だ。
同ジャンルとしては『No Man's Sky』や『Raft』、あるいは『The Forest』との比較が挙げられることが多い。『No Man's Sky』と比べると本作はオープンワールドの自由度より「設計された体験の密度」を重視しており、次に向かうべき目標が常に示唆されている分、迷子になりにくい。『Raft』のような多人数協力プレイはなく、徹頭徹尾シングルプレイヤー向け。『The Forest』のような対人恐怖はないが、深海の生物に抱く「見たくない、でも見てしまう」という引力は共通している。前作『Subnautica』との比較では、本作はよりストーリー主導でボリュームも若干コンパクト。前作で感じた「全てが未知」という感覚は薄れるが、代わりに感情的なドラマが強化されている。
プレイ時間は、メインストーリーをなぞるだけなら20〜25時間程度。しかし全バイオームの探索、全データログの回収、拠点の美的追求を含めると40〜50時間は優に費やせる。エンドゲームコンテンツは前作同様控えめで、ストーリークリア後の「やり込み」という点では物足りなさを感じる人もいるだろう。周回プレイより、最初の一周を丁寧に楽しむタイプのゲームだと理解しておくといい。
注意点として、恐怖耐性の問題がある。本作は「ホラーゲーム」とは分類されないが、深海に潜む巨大生物との遭遇はかなりの圧を持っている。特に序盤、装備もなく漆黒の海底に近づいた際の恐怖は本物だ。また、クラフトのレシピが直感的でなく、何を作れば次のステップに進めるのか分からずに詰まるケースがある。攻略情報を参照することへの抵抗がない人の方がフラストレーションなく楽しめるだろう。
「孤独な探索と生存」という体験に惹かれる人、水中という非日常的な空間に好奇心を持つ人、ストーリーの断片を自分で集めながら謎を解いていく過程が好きな人には強くおすすめできる。¥1,419という価格帯を考えれば、コストパフォーマンスは突出している。逆に、戦闘を主軸に据えたアクションを求める人、マルチプレイが前提の人、広大なオープンワールドを仲間と駆け回ることを期待する人には刺さりにくい。深海という舞台そのものに不快感を持つ人も、序盤での離脱率が高いジャンルでもある。
氷の下に広がる異星の海は、怖いほど美しい。その矛盾した感情こそが、このゲームの真価だ。
スクリーンショット











