
Night in the Woods
開発: Infinite Fall発売: Finji¥1,150
アドベンチャー
Steam レビュー
非常に好評
PlayNext レビュー
大学を中退して実家に帰ってきた猫の女の子、メイ・ボロウスキー。彼女が久しぶりに降り立ったポッサム・スプリングスは、記憶の中より少し古びて、少し静かになっていた。幼馴染たちはそれぞれの生活を持ち、かつての賑わいを失いつつある商店街には空き店舗が増えている。「Night in the Woods」は、そんな何でもない日常の断片をつなぎながら、どこかで止まってしまった若者の内側をゆっくりと掘り下げていく作品だ。派手なアクションも謎解きも最小限——それでも、プレイし終えた後にはずっしりとした余韻が残る。
操作はシンプルで、基本は横スクロールの2Dプラットフォーマーに近い。メイは軽快に走り、電線に飛び乗り、街を駆け回る。しかしこのゲームの「手触り」の核心はそこではなく、会話にある。町の住人に話しかけると枝分かれするわけではなく、むしろ一言一言が積み重なって関係性が育まれていく感覚に近い。会話のテンポは絶妙で、ユーモアと哀愁が同居した台詞回しは読むことそのものが心地よい。ミニゲームとして登場するバンド練習(リズムゲーム)や、深夜に繰り広げられる友人との悪ふざけも、ゲームプレイのアクセントとして機能している。やり込み要素は多くないが、ログ(日記)を全部集めたり、住人との会話パターンを埋めたりするコレクション的な楽しみ方もできる。
ビジュアルは一目で忘れがたい。動物たちが暮らす北米の田舎町をモチーフにした世界は、フラットながら表情豊かなアートスタイルで描かれ、秋の夕暮れや深夜の路地裏がもつ独特の空気感を見事に再現している。キャラクターの動きにはアニメ的な誇張があり、感情表現がストレートに伝わってくる。サウンドトラックは繊細なインディーロックを基調としており、Alec Holowka(本作の作曲担当)が手がけたメロディは場面ごとの感情をさりげなく底上げする。特に夜のシーンで流れる曲は、寂しさと安らぎが混ざり合った独特の情感があり、長く記憶に残る。
物語の中心にあるのは、方向性を見失った若者の話だ。メイはなぜ大学を辞めたのか、自分はこれからどう生きていくのか——そういった答えの出にくい問いを抱えながら、彼女は旧友のグレッグ、ビー、アンガスと再会し、夜ごと街をさまよう。ポッサム・スプリングスという町自体も登場人物のひとりのようで、産業の衰退、コミュニティの崩壊、残された人々の誇りと諦めが、丁寧に描かれている。ストーリーは終盤に向けて不穏な方向へ動いていくが、その核心は超自然的な謎よりも、ずっと人間(と動物たち)の内側にある。ネタバレは避けるが、感情の揺さぶり方において本作は並外れたものを持っている。
似たゲームとして「Celeste」や「Oxenfree」がよく挙げられるが、比べるとその違いが際立つ。Celesteは自己克服という明確なテーマとアクションの緊張感が軸だが、Night in the Woodsはもっと漫然と漂うような体験だ。Oxenfreeもティーンエイジャーの会話劇という共通点があるが、ホラー・ミステリーの文脈で進むあちらに対し、こちらは日常の倦怠感と向き合う作品として性格が異なる。「What Remains of Edith Finch」に近い「読むゲーム」の系譜に属するが、探索の自由度と繰り返しプレイしたくなるような会話の豊かさは本作独自の強みだ。
プレイ時間は1周5〜8時間ほど。短くも感じるが、密度は高い。グレッグルートとビールート(親友との会話の選択で変化する)で一部のシーンが異なるため、2周目も自然と手が伸びる。ただしストーリーの大筋は変わらないので、「別エンディング目的」よりも「見逃した会話を拾いに行く」感覚での再訪が合っている。
注意点もある。このゲームはうつ病、疎外感、アイデンティティの喪失といったテーマを正面から扱っており、それに共鳴しすぎてしまう人には感情的に重くなる可能性がある。アクション要素が非常に薄いため、明確な目標や達成感を求めるプレイヤーには物足りなさを感じさせるだろう。テキスト量も多く、英語版と日本語版どちらも台詞の量は相当なので、読み飛ばしたいタイプには向かない。
こういう人に強くすすめたい——20代のモラトリアムをどこかで経験したことがある人、小さな町の閉塞感や人間関係の微妙さに覚えがある人、物語の余白を自分なりに埋めることが好きな人。逆に、テンポよくゲームを進めたい人や、ゲームにカタルシスや爽快感を求める人には向かないかもしれない。Night in the Woodsは、プレイヤーに何かを「させる」ゲームではなく、何かを「感じさせる」ゲームだ。メイの帰郷に付き合ううちに、自分自身の記憶や感情が静かに揺り起こされる——そんな体験をしたいなら、この作品は間違いなく応えてくれる。
スクリーンショット











