Firewatch

Firewatch

開発: Campo Santo発売: Panic¥2,300
アドベンチャーインディー

Steam レビュー

非常に好評

PlayNext レビュー

孤独と、誰かの声だけがある場所で、人は何を考えるのか。Firewatchはその問いに、ゲームという形で向き合わせてくれる作品だ。1989年のワイオミング州シャイアン・マウンテン荒野保護区。あなたは火災監視員として、人里離れた望楼に配属される。手元にあるのはトランシーバー一台。画面の向こうに広がるのは、誰も来ない広大な自然と、まだ何も起きていない夏の静寂だ。 ゲームを起動して最初に驚くのは、その「遅さ」だ。テキストベースのプロローグで主人公ヘンリーの過去が淡々と語られ、プレイヤーは彼がなぜこんな場所に逃げてきたのかを理解する。その重さを背負ったまま、望楼に一歩踏み出した瞬間——黄金色の夕陽と燃えるような木々の色彩が視界を覆い、思わず立ち止まってしまう。ここから先はもう、急がなくていい。そういう雰囲気がある。 操作自体はシンプルだ。地図とコンパスを手に持ち、目印を確認しながら森を歩く。スマートフォン時代に育ったプレイヤーには新鮮かもしれないが、GPSもマーカーも表示されない。紙の地図を自分で折り、現在地を目視で確認しながら移動する。この「アナログなナビゲーション」が、不思議なほど没入感を高める。迷子になっても焦らない。むしろ迷うことで、この森が確かにリアルな空間として存在している感覚が増していく。 ゲームプレイの中心はトランシーバーでの会話だ。同僚の監視員デリラとのやり取りが、このゲームの魂といっていい。選択肢が提示されるたびに、どう答えようか少し考える。軽口を叩くか、真剣に話すか、沈黙を選ぶか。彼女の反応は毎回微妙に違い、ヘンリーとデリラの関係性が少しずつ形づくられていく。互いの顔も見えない、声だけの対話。それなのに、ゲームが進むにつれて、デリラという人間がどんどんリアルに感じられてくる。これはゲームの脚本の力だ。Campo Santoのライターたちが書いた台詞は、どこかさりげなく、それでいて鋭く人間の本質に触れてくる。 ビジュアルの話をしないわけにはいかない。Firewatchのグラフィックはポリゴン数や解像度で語るようなものではなく、徹底的に計算されたアートスタイルによるものだ。イラストレーターOlly Mossが手がけたコンセプトアートをそのまま3D化したかのような画面は、写実的ではないが「この景色を見た」という記憶に刻まれる強さを持っている。夜明けの霧、炎の反射、夕暮れの稜線——光の演出が特に秀逸で、同じ場所でも時間帯によってまったく違う表情を見せる。音楽はクリス・ライトリフによる環境音楽的なサウンドトラックで、森の静けさと物語の緊張感を絶妙に橋渡しする。 物語については多くを語らないほうがいいが、一点だけ言わせてほしい。このゲームはミステリーとして始まり、不穏な出来事が積み重なるにつれて「ここには何かある」という予感がどんどん膨らんでいく。その緊張感の高め方は非常に上手い。ただし、最終的にどこへ向かうかは、プレイするまで知らないほうがいい。それがこのゲームの誠実さであり、人によっては不満の種にもなるところだ。 似たゲームとして名前が挙がりやすいのは『What Remains of Edith Finch』や『Gone Home』だろう。いわゆる「ウォーキングシミュレーター」というカテゴリに属する。ただFirewatchはその中でも、もう少し広いフィールドを自由に歩き回れる点と、会話による関係性構築がより濃い点で差別化されている。『Edith Finch』が閉じた空間での発見に特化しているのに対し、Firewatchは開かれた野外空間での「さまよう体験」に重きを置いている。RDR2やSkyrimのような大規模オープンワールドとは真逆で、マップは小さいがすべての空間に意味がある。 プレイ時間は4〜6時間程度。一度クリアすれば物語の全容はわかるため、エンドコンテンツや高難度モードはない。周回プレイで台詞の選択を変えても、大きく展開が分岐するわけではなく、マルチエンディングも存在しない。ボリュームとして物足りなさを感じるかどうかは、このゲームを映画体験として捉えるか、ゲームのボリュームで評価するかによって大きく変わる。 注意すべき点がある。このゲームは「何かをする」ゲームではなく「誰かと話しながらどこかを歩く」ゲームだ。敵は出てこない。戦闘もない。謎解きも最小限だ。ゲームに刺激やアドレナリンを求めている人には明らかに合わない。また、結末に対して賛否があることは事前に知っておいてほしい。「こう終わるべきだった」という感情が湧いてくるプレイヤーは多い。それがこのゲームの深みでもあり、受け入れがたい部分でもある。 こういう人に強くすすめたい——静かな時間に、じっくりと何かを感じたい人。会話と人間関係の機微を楽しめる人。自然の中に身を置く体験が好きな人。あるいは、今少し日常から離れたい気分の人。逆に、アクションやパズル、長いゲームプレイ時間を求めている人には向かない。 Firewatchはゲームとして「できること」が少ない。でもそれは欠点ではない。削り落とした先に残ったものが、このゲームの本質だ。ヘンリーとデリラの声、黄昏色の森、手の中のトランシーバー——それだけで、他のどんなゲームにも代替できない体験がある。
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スクリーンショット

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