
Marvel’s Spider-Man Remastered
開発: Insomniac Games発売: PlayStation Publishing LLC¥3,036
アクションアドベンチャーカジュアル
PlayNext レビュー
空中を飛び回る感覚がこれほど気持ちいいゲームを、私は他に知らない。Marvel's Spider-Man Remasteredの核心は「移動そのものが楽しい」という、ゲームデザインとしてはシンプルだが実現が極めて難しい体験にある。ニューヨークの高層ビル群の間をウェブスイングで駆け抜ける瞬間、ビルの谷間に飛び込んでギリギリで上昇し、次のビルに向かって加速する——このループが20時間経っても飽きない。移動手段としてのウェブスイングではなく、それ自体が目的になりうるほどの完成度だ。
操作感は驚くほどスムーズで直感的だ。Rボタンでウェブを放ち、空中で方向を変え、タイミングよく離すと速度が乗る。最初の数分で基本は覚えられるが、「上手くなる余地」が深い。慣れてくるとウェブジップ(特定の点に瞬間移動する技)やパーク技を組み合わせ、より高速かつ滑らかな移動ができるようになる。コンバットも似た構造で、基本は「攻撃・回避・ウェブ」の三要素だが、敵の種類や状況に応じてガジェットやスーツパワーを使い分ける必要があり、上級難易度では即興性が求められる。アクションゲームとしてのテンポは非常に速く、戦闘後の爽快感は本物だ。
グラフィックはPS5版からの移植だけあって、PC版は解像度・フレームレート・レイトレーシングすべてにおいて高水準だ。ニューヨークの街並みはディテールが細かく、日の光の当たり方や雨の濡れた路面の反射が美しい。スパイダーマンのスーツの布地の質感まで確認できる精細さで、フォトモードで撮影したくなる瞬間が随所にある。サウンドは映画的なオーケストラスコアが戦闘の興奮を高め、ニューヨークの喧騒——クラクション、市民の声、ラジオの音——が世界の生々しさを演出している。
ストーリーは「経験を積んだスパイダーマン」が主人公という設定が秀逸だ。初心者ヒーローの成長物語ではなく、すでに多くの戦いをくぐり抜けてきたピーター・パーカーが、プロとしての判断を迫られる場面が多い。ヴィランとの対立は単純な善悪二元論ではなく、それぞれに動機や事情がある。スーパーヒーローものとしての派手さを保ちながら、ピーターの私生活——MJとの関係、メイ叔母さんとの絆、日々の金銭苦——が丁寧に描かれており、感情移入しやすいキャラクターとして成立している。ネタバレを避けると詳細は言えないが、中盤から終盤にかけての展開はスーパーヒーロー映画のベストに匹敵する密度がある。
同じオープンワールドアクションのBatman: Arkham Cityと比較すると、スパイダーマンの移動自由度は圧倒的に高い。バットマンはグライダーと制限された空中移動だが、こちらはビル間を本当に「泳ぐ」感覚がある。ゴッサムシティの暗い閉塞感に対してニューヨークは開放的で明るい。ストーリーと世界観の作り込みはArkhamシリーズが一歩上だが、純粋な移動の気持ちよさではSpider-Manが勝る。GTA5やAssassin's Creedのようなオープンワールドと比べると、サイドクエストの種類は少なめで「これをやり続ければいい」というバリエーションには欠ける。
プレイ時間はメインストーリーだけで15〜18時間程度、サイドコンテンツや収集要素をすべて回収すると30〜35時間ほどだ。サイドクエストは「犯罪の阻止」「基地の制圧」「移動塔のアクティベート」といったパターン型で、後半は作業感が出てくるのは正直なところだ。ただし各区画ごとにコンプリートするとスーツや技のアンロックが進むため、達成感は維持される。ニューゲームプラスでは難易度を上げて全スーツ持ち越しで再挑戦できる。スーツの種類は30種以上あり、映画版・コミック版・オリジナルと多彩で、コレクション要素として機能している。
注意点として、スパイダーマンというIPへの事前知識がある程度あると楽しめる部分が多い。登場キャラクターの関係性や過去の経緯がさりげなく示される場面があり、知識なしでも理解できるが、知っている方がより深く楽しめる。また、オープンワールドとしての密度はUbisoftタイトルなどと比べると薄く、「世界を探索する楽しさ」よりも「移動とコンバットを洗練させていく楽しさ」が主軸のゲームだ。探索要素や長大なオープンワールドを期待すると物足りなさを感じる可能性がある。コントローラー推奨——キーボードマウスでも遊べるが、ウェブスイングの快適さはコントローラーで大きく変わる。
アクションゲームが好きで「移動が楽しいゲーム」を求めている人には間違いなく強くおすすめできる。スーパーヒーロー映画が好きで、映画的なストーリー体験をゲームで味わいたい人にも適している。¥3,036という価格は、このクオリティのゲームとしては破格であり、セールを待たずとも十分に元が取れる内容だ。逆に、深い探索・クラフト・RPG要素を期待している人、オープンワールドの広さを重視する人、あるいはスーパーヒーロー設定が根本的に合わない人には向かないかもしれない。純粋なアクションゲームとしての完成度と、スパイダーマンというキャラクターの体現——この二点において、本作は現時点で最高水準の作品の一つだ。
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