
Prey
開発: Arkane Studios発売: Bethesda Softworks¥660
アクションアドベンチャー
PlayNext レビュー
宇宙ステーション「タロス1」に目を覚ましたとき、プレイヤーはすぐに気づく——このゲームはただの敵を倒して進むシューターではない、と。Arkane Studiosが2017年にリリースした『Prey』は、「自分がどう動くかを決める自由」を極限まで追求したイマーシブシムの傑作だ。月周回軌道上の宇宙ステーションで異星生命体「テュフォン」に追われながら、生存手段を自分の頭で考え続けるこの体験は、一度ハマれば他のゲームでは味わえない密度を持っている。
ゲームの核心は「問題解決の多様性」にある。目の前に鍵のかかった扉がある。正面突破で鍵を探してもいい。通気口を通って裏から回ってもいい。GLOO砲という特殊な泡を壁に打ち付けて足場を作り、天井から侵入することもできる。ハッキングスキルを上げてパネルを直接こじ開ける選択肢もある。これが序盤から最後まで一貫して成立しているのが『Prey』の強みだ。詰将棋的な「正解ルート」が存在せず、プレイヤーのスキル構成と発想次第でまったく異なる体験が生まれる。
戦闘の手触りは最初こそもどかしい。敵のテュフォンは素早く、通常の銃でダメージを与えにくい。弾薬は常に乏しく、正面から撃ち合うと消耗戦になる。しかし、ゲームを進めてスキルツリーを育てると状況が一変する。サイコスコープでテュフォンの能力を習得すると、人間であるモーガン(主人公)がエイリアン的な力を使えるようになる。テレキネシスで物を投げつけたり、瞬間移動で奇襲したりと、戦闘スタイルが大きく広がる。序盤の「怖くて逃げるしかない」段階から、中盤以降に「これなら戦える」という手応えへと変化するカーブが気持ちいい。
タロス1というステーション全体がオープンフィールドになっており、エリア間をシームレスに行き来できる設計もユニークだ。宇宙遊泳で船外を移動し、別のエントランスから別エリアへ侵入する、といったルート開拓が常に存在する。後から入手したスキルで「さっき入れなかった場所」に戻れる、いわゆるメトロイドヴァニア的な構造が採用されており、探索の喜びが持続する。ステーション内の各エリアは「科学棟」「アルボレタム」「冷却エリア」など異なる雰囲気を持ち、死体や日記、メール履歴が積み重なることで、事件前夜の人々の日常が浮かび上がってくる。
ビジュアルは2017年作品ながら今見ても見劣りしない。アートデザインの方向性が明確で、「1960年代のレトロフューチャー」と「宇宙の無機質な冷たさ」が混在するタロス1の美学が徹底されている。窓の外に広がる月と地球の光景は、息をのむ静寂感がある。サウンドも優秀で、テュフォンが近くにいるときの不協和音的なBGMの変化が、常にプレイヤーの緊張感を維持させる。静かな廊下に響く自分の足音だけの瞬間と、戦闘時の混沌とした音響の落差が、探索の没入感を高めている。
同じイマーシブシム系の『Dishonored』シリーズ(同じArkane製)と比べると、『Prey』はよりサバイバル色が強く、リソース管理の比重が大きい。『Dishonored』がステルスアクションとしての完成度を重視するのに対し、『Prey』は「どう生き延びるか」という問いを中心に据えている。また、BioShockシリーズとも比較されることが多いが、BioShockが一本道に近い展開であるのに対し、『Prey』はより自由度が高く、環境の読解力が求められる。「探索と推理と戦闘を自分のペースで組み合わせたい」という層には、BioShockより刺さりやすい。
プレイ時間は、メインストーリーだけなら20〜25時間程度。探索やサブクエストを含めると30〜40時間になる。周回プレイは、倫理的な選択やスキルの選び方で結末が変わるため意味があり、2周目は全体像を知った上でサブクエストの文脈を読み直す楽しさがある。エンドコンテンツとして、DLC「ムーンクラッシュ」はローグライク的な構造を持ち、本編とは異なる遊び方が楽しめる。
注意点を正直に言えば、序盤のとっつきにくさは否定できない。最初の数時間は弾薬不足と敵の強さに圧倒されがちで、「これ楽しいのか?」と感じる瞬間がある。UIや操作の説明が丁寧ではなく、ゲーム内で提供される情報量が多すぎて整理に手間取ることもある。ストーリーは哲学的なテーマを扱っており、「わかりやすいヒーローもの」を期待すると肩透かしを食らう可能性もある。
「敵を倒すだけでなく、空間そのものと対話したい」「自分の選択でゲーム体験が変わる感覚を楽しみたい」「宇宙ステーションというクローズドな舞台の密度に浸りたい」という人には、¥660という価格は驚くほど安い。逆に、テンポよく爽快なシューターを求める人、マップを把握して探索するのが苦手な人には、ストレスを感じる場面も多いかもしれない。「次にどこへ行くべきか」を自分で判断する楽しさがこのゲームの本質であるがゆえに、手取り足取り誘導されることを好むプレイヤーとは相性が悪い。Arkane作品やMetroidシリーズが好きで、まだ未プレイなら間違いなく手にとってほしい一本だ。
スクリーンショット











