
A Short Hike
開発: adamgryu発売: adamgryu¥451
アドベンチャーインディー
Steam レビュー
非常に好評
PlayNext レビュー
「次のバス停まで、どうせ暇だし山頂まで行ってみようか」——そんな軽い気持ちで始めたハイキングが、気づけば夕暮れ時まで続いていた。A Short Hikeはそういうゲームだ。電波が届かない山小屋にやってきた小鳥のクレアが、山頂を目指してホークピーク州立公園を歩き回る。ゴールは明確なのに、なぜか急ごうという気にならない。それがこのゲームの核心にある魔法だと思う。
操作はシンプルで、移動・ジャンプ・羽ばたきの三つがほぼすべてだ。羽ばたきには「羽根」というリソースが必要で、はじめは少ないが、公園内に落ちているゴールデンフェザーを集めるほどスタミナが増えていく。山頂に近づくほど地形は険しくなるが、羽根が増えれば空をグライダーのように飛べる距離も伸びる。この成長感が絶妙で、最初はなかなか登れなかった崖も、しばらく公園を探索して戻ってくるとスルリと越えられるようになっている。「強くなって戻ってくる」という古典的なゲームデザインが、ごく自然な形で組み込まれている。
テンポはひたすら穏やかだ。走れるし飛べるのに、急かされる感覚がまったくない。BGMはアコースティックギターとピアノが中心で、風の音と混ざり合いながら流れている。公園の中では釣りができ、ビーチバレーで地元民と遊べ、お土産を集めているコレクターがいて、レースを挑んでくるキャラクターもいる。これらのサブコンテンツはどれも強制ではなく、気が向いたときに立ち寄れる程度の密度で配置されている。Stardew Valleyのように「全部やらなきゃ」という圧力がなく、Breath of the Wildのような広大さもない。ちょうどいい小さな公園を、自分のペースで散歩している感じに近い。
ビジュアルはローポリゴンで、解像感はあえて低めに抑えられている。ピクセル感が残るテクスチャと明るいパステルカラーの組み合わせが、どこか懐かしさを呼び起こす。夏の午後の光の加減、海岸線の青と砂浜の黄色、森の中の木漏れ日——これらが2Dイラスト的な美しさでまとめられており、スクリーンショットを撮りたくなる瞬間が何度もある。サウンドについては特筆すべき点があって、環境音の作り込みが丁寧だ。草地と砂浜と岩場では足音が変わり、風に乗って高く飛んだときの音の抜け感が気持ちいい。
ストーリーはほとんどない、と言っていい。クレアが山頂を目指す理由はあるが、そこに向かう過程で出会う人々との短い会話のほうが心に残る。公園の常連らしい老婆、悩みを抱えたキャンパー、一人で来ている少年——それぞれが一言二言の台詞の中に生活感を持っていて、読み終わったあとにじんわりする。このゲームはストーリーを語ろうとしているのではなく、「ある夏の一日」という感触を体験させようとしているのだと思う。その設計がみごとに機能している。
同じ「歩くゲーム」として比較されやすいFirewatchとは方向性が大きく異なる。Firewatchは孤独と緊張感があるが、A Short Hikeに不安はない。Gorogoaや Florence のような短編インタラクティブ体験とも違い、もう少し自由に動き回れる余地がある。最も近いのはA Hat in Timeあたりかもしれないが、あちらのはしゃぎまわる感じとも違う。A Short Hikeはただ静かに、心地よい。
プレイ時間は初回クリアまで1〜2時間ほど。サブコンテンツをすべてやり切っても3〜4時間の範囲に収まる。周回要素や難易度選択はなく、クリア後に特別なコンテンツが解放されるわけでもない。それを短所と感じるかどうかは人による。451円という価格で2時間の完結した体験を買うものだと思えば、十分すぎるコストパフォーマンスだ。逆に「クリア後もやり込みたい」「100時間遊べるゲームが欲しい」という人には勧めにくい。
強くおすすめできるのは、最近ゲームをする余裕がないと感じている人だ。複雑なシステムを覚える必要がなく、セーブを忘れて進めすぎることもなく、いつでもやめられて、いつでも再開できる。週末の朝に一杯のコーヒーと一緒に遊んでちょうどいい。あるいは、重厚なゲームを一本クリアしたあとの口直しとしても最適だ。逆に合わないのは、ゲームに達成感や戦略的な奥深さを求める人だろう。戦闘はなく、失敗もなく、ただ歩いて、飛んで、話すだけ——それに退屈を感じるなら、このゲームは合わない。
ホークピーク州立公園は、実在する公園よりも少し優しくできている。道に迷っても誰かが教えてくれるし、疲れたらベンチで休める。山頂にたどり着いたとき、クレアが何を感じるかは見てほしい。それを言葉にするよりも、自分の足で登ったほうがずっといい。
スクリーンショット











