
きかんしゃトーマス™:ソドー島の不思議
Thomas & Friends™: Wonders of Sodor
開発: Dovetail Games発売: Dovetail Games¥4,500
PlayNext レビュー
幼いころにブルーの機関車が走るあの映像を見て育った人なら、一度はあの運転席に座ってみたいと思ったことがあるはずだ。きかんしゃトーマス™:ソドー島の不思議は、その夢をそのまま形にしたようなゲームである。Dovetail Gamesといえば、Train Simulator ClassicやTrain Sim Worldシリーズで鉄道シミュレーターの世界では定評のあるスタジオだ。そのDovetailが本格的な鉄道シミュレーション技術をベースに、トーマス・ザ・タンク・エンジンの世界へと舵を切ったのがこの作品になる。子ども向けコンテンツを原作にした作品でありながら、実際に遊んでみると大人の目線でも十分に楽しめる要素が詰まっていて、むしろ「昔のファン」にこそ強く刺さる一本になっている。
ゲームプレイの中心は、ノースウェスタン鉄道を走るクラシックな蒸気機関車の運転だ。プレイヤーはトーマスをはじめとするキャラクターたちのキャブ(運転席)に乗り込み、ソドー島各地を走るシナリオをこなしていく。操作感はTrain Sim Worldほど複雑ではなく、蒸気圧管理やレバー操作といった本格的なシミュレーション要素は簡略化されている。スロットル・ブレーキの基本操作を押さえれば、初心者でもすぐに走らせることができる。このあたりは意図的にハードルを下げた設計で、「Train Sim Worldをやってみたいけど複雑そう」と感じている層にとっての入門編として機能している。
一方でただのボタン連打で進めるほど単純でもない。信号の確認、定刻通りの発着、指定された速度域での走行といった要素が組み合わさり、プレイしながら自然にリズムが生まれてくる。テンポはゆったりしていて、緊張感というよりは「ちゃんとこなせた」という達成感が積み重なっていく感覚に近い。Steam実績も実装されており、条件を意識したプレイの動機づけになっている。ただし時間制限付き入力なしでプレイ可能という仕様が示すとおり、焦らせるような設計は排除されており、マイペースに楽しめる点は好印象だ。
ビジュアル面では、ソドー島の牧歌的な風景が丁寧に再現されている。緑の丘、白い砂浜、煤けたレンガの機関車庫といったおなじみの景色が、現代的なグラフィックで表現されており、原作のイメージを壊さずに視覚的に豊かな体験を提供している。機関車のモデリングは細部まで作り込まれていて、運転席からの視点で見るキャブのインテリアにはDovetailらしい本格感がある。サウンド面では、蒸気機関車特有のリズミカルな駆動音や汽笛の響きが心地よく、ステレオサウンドの設計もあって臨場感は十分だ。また日本語字幕に対応しており、ナレーションやセリフの内容をしっかり追いながらプレイできる。
物語面での特徴は、運転席から語られるナレーション形式を採用している点だ。プレイヤーが実際にキャブに座り、走りながらキャラクターたちの声で物語が展開していく。これはテレビシリーズのノスタルジーを直接体験に組み込む工夫で、ただ「ゲーム内のイベントを見ている」のではなく「自分が物語の中にいる」という感覚を生み出している。全く新しいナレーションが用意されているため、トーマスの旧来のファンにとっても新鮮なエピソードとして楽しめる。ネタバレは避けるが、ソドー島の各エリアに結びついたエピソードが用意されており、探索を進める動機になっている。
似たゲームとの比較で言えば、まずDovetail自身のTrain Sim Worldシリーズとは明確にターゲットが異なる。あちらは実在路線の忠実な再現と本格操作を売りにするヘビーなシミュレーターだ。こちらはIPの親しみやすさと体験の軽さを優先しており、競合というよりは補完関係にある。また子ども向け鉄道ゲームという文脈では、かつてWiiやDSで発売された旧トーマスゲームシリーズよりも格段にビジュアルクオリティが高く、大人が遊んでも絵的に恥ずかしくない水準に仕上がっている。Nintendo Switchの「みんなのどうぶつの森」的なゆったりしたプレイ感と、ライト鉄道シミュの要素を組み合わせたイメージが近い。
プレイ時間の目安としては、メインシナリオをひと通り遊んで10〜15時間程度が見込まれる。Steam実績コンプリートや各ルートの完走条件の達成まで含めると20〜30時間ほどのボリュームがある。繰り返しプレイへの動機づけとしては、完璧な運転スコアの追求や実績解除が機能しているが、ストーリードリブンの一本道であるため、純粋なやり込み型のプレイヤーには物足りなさを感じる場面もあるかもしれない。
注意点として、価格が¥4,500という点は正直判断が難しい。コンテンツ量や操作の奥行きを考えると、同価格帯のほかのインディーシミュレーターと比べて割高に感じる可能性がある。また部分的コントローラサポートとあるように、ゲームパッドで全操作を完結させることはできず、一部マウス・キーボードが求められる場面がある。PC環境でのプレイを前提とした設計であることは頭に入れておきたい。さらに、本格的な運転シミュレーターとしての深みを求めているプレイヤーには、操作の簡略化が物足りなく映るだろう。
こういう人には強く勧めたい。子どもの頃にトーマスで育った20代〜40代で、あの世界観に再び触れたいと思っているノスタルジー層。鉄道シミュレーターに興味があるがTrain Sim Worldはハードルが高いと感じているライト層。小さな子どもと一緒に遊べるゆったりしたゲームを探している親御さん。逆に、ガチガチの鉄道シミュレーションを求めているプレイヤーや、ストーリーの複雑さや戦略性を重視するゲーマーには合わないだろう。トーマスというIPへの親しみがそもそもない場合も、このゲームの最大の魅力が半減してしまう。
ソドー島はいつも、ちゃんとそこにあった。あの懐かしい島をもう一度走りたいという気持ちが少しでもあるなら、このゲームはその期待に十分応えてくれる。
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