
The Bard's Tale IV: Director's Cut
開発: inXile Entertainment発売: inXile Entertainment¥720
RPG
Steam レビュー
非常に好評
PlayNext レビュー
ダンジョンの暗がりに踏み込んだ瞬間、吟遊詩人の歌声が響いてくる。The Bard's Tale IVが他のRPGと決定的に異なるのは、戦闘に「音楽」と「詩」が武器として組み込まれているという一点だ。魔法使いが呪文を唱えるように、バードはメロディを奏でて敵を惑わし、味方を鼓舞する。1980年代に一世を風靡したオリジナルシリーズの精神的続編として、このDirector's Cutは単なるノスタルジー商品ではなく、現代のRPGとして十分に通用する深みを持って作り直されている。
戦闘システムは格子状のグリッドを利用したターン制で、位置取りと手札管理が勝敗を分ける。各キャラクターは「オポチュニティポイント」という共有リソースを持ち、強力なスキルを使うほどこのポイントを消費する。全員が豪快な技を連発できるわけではなく、誰が何のポイントを使うかを毎ターン調整しながら戦う。この制約が戦闘をパズル的にしており、敵のHPをゴリ押しで削るのではなく「この敵の体勢を崩してから集中攻撃する」「まずバードで敵のバフを剥がす」といった手順を組み立てる楽しさがある。Baldur's Gate 3のような自由度の高い行動選択とは異なり、もう少し論理パズルに近い感覚だ。
ダンジョン探索にも一筋縄ではいかない仕掛けが多い。鍵のかかった扉、重力や光を利用した謎解き、隠し部屋へのアクセス方法など、探索そのものが一つのゲームになっている。ルーンを組み合わせて特定のメカニズムを動かすパズルは、初見では詰まることもあるが、解けたときの達成感はしっかり用意されている。移動のテンポは現代のアクションRPGと比べると落ち着いており、一歩一歩を確かめながら進むスタイルを好む人にとっては心地よいリズムだ。一方、ザッピング感覚でさくさく進みたい人には重く感じるかもしれない。
ビジュアルはスコットランドのケルト文化にインスパイアされており、石造りの街並みや霧がかかった丘陵地帯など、湿度の高い北欧的な雰囲気が漂う。光と影の演出が丁寧で、ロウソクの光だけが頼りの地下牢から、朝霧に包まれた草原まで、シーンごとに空気感が変わる。キャラクターモデルはやや古さを感じさせるが、Director's Cutでアップデートされた映像は及第点以上だ。サウンドトラックはゲームの根幹を成す要素で、ケルト的なメロディラインと重厚なオーケストラが組み合わされている。特にバードの戦闘時の歌声は実際に生演奏で収録されており、耳に残る。ゲーム中のBGMとして流しておくだけでも心地よく、設定をOFFにするのがもったいなく感じるほどだ。
舞台は「トラ・ドゥア」という架空のスコットランド的な都市国家で、支配層と被支配層の対立、禁じられた魔術の歴史、そして失われた知識をめぐる陰謀が絡み合う。物語は序盤こそ地味に見えるが、進むにつれて登場人物の思惑が交差し始め、簡単に善悪を断定できない複雑な構図が浮かび上がる。会話選択肢はプレイヤーキャラクターのクラスやスキルによって変化するものもあり、「バード」として詩吟を使って交渉を有利に進める選択肢が現れることもある。世界観の厚みはinXileらしく、随所に配置された書物やNPCの台詞にロア(世界観の背景設定)が丁寧に詰め込まれている。
同社の前作Wasteland 2、あるいはDivinity: Original Sin 2と比較すると、自由度の幅は少し狭い。Divinity 2がほぼ何でも可能な「何でもあり」感覚なのに対し、Bard's Tale IVはより「設計されたパズルを解く」方向性だ。Pathfinder: Kingmakerのような膨大なクラスの組み合わせはなく、選べるキャラタイプは絞られているが、その分一つひとつのスキルの使いどころが明確で、初心者でも役割分担を把握しやすい。「重厚すぎるRPGはちょっと...」という層に向けた、適度にコンパクトなパーティ制RPGとして機能している。
メインストーリーのクリアには大体20〜30時間を見ておくとよい。サイドクエスト、隠し部屋、収集要素を含めると40時間前後は遊べる。難易度選択が可能で、パズル要素と戦闘難易度を個別に調整できるのは親切な設計だ。二周目は選択肢の違いや取りこぼしたパズルの回収に使えるが、ストーリーの根幹が大きく変わるマルチエンディング構造ではないため、周回前提というよりは一周をじっくり楽しむゲームと考えたほうがいい。Steam実績はやり込み勢にとっての道標になる。
注意しておきたいのは、日本語ローカライズが公式に存在しないことだ。英語テキストが中心で、スコットランド訛りの台詞や方言的な表現も含まれる。英語に不安があると物語の細部を追いきれない可能性がある。また、序盤の難易度調整に若干粗さがあり、最初の数時間は戦闘の取っ掛かりが掴みにくいと感じるプレイヤーもいる。チュートリアルを丁寧に読み進める心構えが必要だ。グラフィックのクオリティも最新AAA作品と比べると見劣りする部分はある。
720円という価格を考えると、コストパフォーマンスは圧倒的に高い。ターン制の戦略性を好み、探索とパズル解きに時間を使うことを楽しめる人、ケルト・スコットランド的な世界観に惹かれる人、かつてWizardryや初代Bard's Taleで遊んだような「古き良きダンジョンRPG」のDNAを求める人には強くおすすめできる。逆に、アクション要素の強いRPGやオープンワールドの自由な探索を求めている人、物語のテンポを重視する人には合わないかもしれない。「じっくり考えて戦う」ことそのものを楽しめるかどうかが、このゲームを好きになれるかどうかのほぼすべてを決める。
スクリーンショット











